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【さくらぎ館】 四国・ちょっと山に囲まれた集落の宿に泊まってきた (@徳島県那賀郡那賀町)

ここまで年季の入った宿にはなかなか泊まれるものじゃありませんよ。

【訪問日:2020年10月24日】

辿りつくだけでも困難な宿へ

今回の遠征では久しぶりに四国を訪問し、その上で鄙びた宿に泊まるのが目的でした。

最近、と言っても1年ほど前からですが、週末の過ごし方として「ロードバイク×旅」をいい感じに組み合わせた行程を組むのが日常茶飯事になってきています。ただロードバイクに乗って風光明媚な場所を巡るのももちろん楽しいものですが、個人的にはそこに+αで宿泊という要素を加えるのが何よりも好き。

現地の宿に泊まって現地の美味しいものを頂き、現地のうまいお酒を飲む。もっと言うと、その宿が自分好みな鄙びた雰囲気を纏っているような場所であればもう言うことないです。

今回泊まった宿は、そんな素敵な空気感を味わえるところでした。

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さくらぎ館は四国の山中の那賀町平谷に位置しており、国道でいうとちょうど193号と195号が交わるところにあります。

地図上で見ると非常に分かりやすいものの、この宿に辿りつくまでの道のりがかなり大変でした。そもそも四国は本当に山間部が多いところであり、沿岸部からほんの少し内陸に向かうだけでヒルクライム祭りになるという、自転車乗りからすれば挑み甲斐がある地形が目白押しといった感じ。特に徳島県の内陸部は剣山をはじめとした山々が連なっていて、登山的な意味でも面白い場所です。

で、そんな山々を分け入るように自転車で走っていくと、道の脇にぽつぽつと集落が点在しているのが分かります。さくらぎ館がある平谷地区もそんな集落のうちの一つで、ここに到着するまでに霧越峠という心細くなる酷道を走ってきた自分としては、久しぶりに見る民家に涙せざるをえませんでした。

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宿は集落入り口に位置しており、霧越峠方面から来た場合は橋を渡った先に見える

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ライドの記録は別記事で述べるとして、本記事ではこのさくらぎ館についてご紹介します。

まずは外観から。

さくらぎ館の建物としては向かって右手側の2階に欄干がある方と、左手側の(右手側よりは)新しめの棟で構成されています。宿の前には軽トラが停まっているため人が住んでいるであろうことは推測できるものの、その古びた外観や雰囲気などから、ここが現役の宿であることを窺い知るのは至難の業です。

自分も地図を確認して現地に到着したはいいものの、2階で布団を干しているのを視認できなかったらたぶん素通りしてました。

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右手の建物に関しては完全に2階部分のみが使われており、1階部分は倉庫というか物置になってました

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曲がり道に沿って建物が連なっている様子が実に良い

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看板の文字列を見るに、当初は旅館というよりは料亭として営業されていたことを予感させます。

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入り口は2つあり、向かって左側が厨房、右側が通常の玄関口

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1階左奥が風呂とトイレで、その右横が食事用の部屋。ちなみに私が泊まったのは右上の部屋です

というか、外観だけ見た感想としては、未だにここが営業されている宿ということがにわかには信じがたいというのが正直なところ。

親戚の家の見た目がまさにこんな感じなので、宿というよりはといった方が正確かもしれません。しかし、それだけに居心地の良さや安心感は普通の宿とは一線を画するというもの。

自転車を軒下に置かせていただき、早速中へ入ってみることにしましょう。

屋内へ

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こんにちはー…(ガラガラ)

玄関入って正面が厨房兼居間のような部屋らしいです。

実は、宿に到着したのが予定よりもかなり早かったため、宿の方がいらっしゃらないようなら適当に周辺を散策するつもりでいました。が、玄関を入って声をかけてみたところ、女将さんが部屋から登場されたのでひとまずお部屋に案内してもらい、荷物だけ置かせてもらうことにしました。

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玄関を入って廊下を直進し、右手の階段を上がると客室へ、左手に進むとお風呂とトイレ、それに食事用の部屋があります

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一歩一歩足を進める度に肺に入ってくる、言うなれば埃のような古めかしい空気。

日の当たりにくい閉塞的な構造がそれを助長させていて、日陰者の自分としてはこの仄暗い感じが実に心地よい塩梅だ。歩くたびにギシギシと音をたてる廊下、苔むしている洗面台、木と漆喰が組み合わさった昔ながらの建築様式。

なんというか、思わず唸ってしまうほど"良い"じゃないですか。

確かに、清潔感はあまりないのかもしれない。

ご覧の通りに湿気が多そうだし(夏場はちょっと厳しそう)、掃除もろくにされていないような感じがするものの、「集落に1件しかない宿に泊まる」と考えてみれば、ここに至るまでの行程も相まって否応なしにテンションが上がってしまう。

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令和2年にこのタイプの電話を見ることになるとは思わなかった

廊下の隅には硬貨を入れる形式の電話機も設置されていて、いつのまにか自分が令和から過去にタイムスリップしたかのような錯覚になったりもしました。

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今回のお部屋は厨房の真上にある「桜の間」

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そして案内してもらったお部屋はこちら。

位置的には宿の前で見た厨房用の玄関口の真上にあり、客室としては一番端っこにあるようです。

そんなことよりも、まずはこの実家のような安心感に驚かざるをえない。年季の入った畳や剥がれかけた壁、採光十分な窓なども含めて精神的な充足感がヤバいです。さらにはコタツも設置してあるので、部屋に入った時点でこの後の散策の計画を一瞬忘れかけるほどに居心地がいい部屋でした。

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窓には網戸というものがなく、格子の入ったガラス戸のみ。

しかもご覧のように立て付けが悪くて隙間も普通にあるので、完全に冬になったら風が入って結構寒いかもしれませんね。というか、部屋には当然のようにエアコンもファンヒーターもないので、暖を取る手段はコタツしかありません。まぁまだ秋なのでそこまで寒くないし、コタツという最強のぬくぬくスポットがあるので問題にはならないでしょう。

…と思って足を突っ込んでみたところ、なぜか暖かくない。なぜ…?と思って確認したのですが、コタツ壊れてました。コンセントを差し直してもスイッチをカチカチやっても点かない。でも自分のために急いで布団を取り込んで準備してくれた女将さんに文句言うのもアレなので、結局コタツの恩恵を受けないまま宿を後にすることになったのは秘密。

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とりあえずお茶でもすするか…(ズズー)

でも、気温的な寒さが気にならないくらい、宿の中が温かさで溢れている。

お茶もそうですが、ありとあらゆるところに家庭的な一面が見え隠れするんですよね。家具ひとつとってみてもそうだし、布団も宿用というよりは家で使われるものだし。

辺りはしんとして物音一つ聞こえない中でしんみりとお茶を飲んでいると、たまに実家に帰省したときのような感覚に似ていることに気づく。どこか懐かしさを感じるのはそのせいかもしれません。

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ふと気になったので、欄干があった方の建物の部屋を見に行きました。自分が泊まっている「桜の間」を出て真っ直ぐ進んだところがその建物で、そのまま直に廊下が続いているようです。

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障子戸を開けた先には2間続きの広間が広がっており、こじんまりとした舞台もあることからおそらくは宴会場として使われていたのだろうと思います。そして壁を挟んで建物右手側(集落入り口側)にも2間続きの部屋があって、こちらは主に客室として用いられていた痕跡が見えました。

布団が散乱していることからある程度は予想していたのですが、女将さんの話によるとここしばらくは工事関係者の方が団体で泊まられているようです(後で詳しく触れます)。

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こういう曲がり道がほんと好きなんですよ

欄干を挟んだ窓からの眺めは素晴らしいの一言で、宿の前の通りや集落の家々が一望できます。

昔はこの廊下に座って、酒を片手に外を眺めている人もいたのかなとふと思ってみたり。そう考えてみると、この宿は当時は集落の中でもひときわ賑わいの大きな貴重な場所だったのだろうと思います。宴会場もあるくらいだしね。

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右手奥がこの宿唯一のトイレ、左手奥がお風呂。左手手前が食事用の部屋

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お次は階段を降りて、山側の廊下を進んでみます。

先に述べたように廊下の先にはお風呂とトイレ、それに洗面台がありますが、特にトイレに関してはここにしかないので行くタイミングに注意が必要かもしれません。正確には2階にもトイレはあるもの、大が故障中と張り紙がしてあったので実質1階のここだけです。

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完全に実家の風呂

お風呂についても実家感満載の見た目となっていて、部屋の件も含めてあれだな、今日は宿に泊まっているんじゃなくて親戚の家に泊まりに来ているんだな。

で、一通り宿の散策が終了した時点で一旦宿を後にして、自転車で平谷集落をぶらぶらしてました。

歩きだとちょっと大変だし、車で走り回れるほど広い道でもない。こういうときの自転車は本当に便利。自転車に乗って各地を走る度に、実に旅に向いている乗り物だと実感しますね。

夕食の時間

散策が終わって、山間部ならでは一足早い日の入りを観測した私は宿に戻ってきました。

待ちに待った夕食の時間。今日の行程のハードさの割にはあまり補給をしてこなかったこともあり、お腹はもうぺこぺこ状態。

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受付時にご主人にご提案された18時にさっきの食事用に部屋に案内していただき、目の前のごちそうに舌鼓をうつ私。こんな四国の奥地で材料を準備するだけでも大変なはずなのに、これほどの料理をいただけるなんて感謝しかない。

と、夕食をいただきつつ女将さんとあれこれお話をしたのですが、断片的に以下の事柄が分かりました。

  • さくらぎ館は戦後の昭和はじめ頃から営業を始めた。
  • ここらへんは観光がないが当時は工事が多く、付近には工事関係者のための宿が多かった。さくらぎ館もそのうちの一件で、その後はそういう宿がどんどん減っていって今では数えるほどしかない。

とのこと。

確かにこの日も(まだ見てないですが)工事関係者が8人ほど泊まるとのことなので、今でもそういう方々のための宿として細々と営業されているらしいです。ごくたまにバイク乗りが泊まりに来るものの、自分のように自転車で来る人は本当に珍しいとも。

その一方で、自転車旅の良さや自転車の小回りの良さについて女将さんの口からお話を聞けたのは意外でした。女将さん一体何物なの…?

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部屋の入り口

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夕食の後は、ふと思い立って外に出てみた。

空気はすでに肌寒く、すでに民家の明かりもまばらで集落を照らしているのは街灯がほとんど。

四方を山に囲まれた四国の山中にあって、この集落まで一人で自転車でやってきて、今まさにそこで1泊しようとしている。なんだか現実味がないほど素敵な体験ができている確信があるし、この僥倖を味わえるなんて幸せ以外に言葉が見つからない。

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そこからはもう早いもの。

眠気が一気に襲ってきたのでお布団を敷き、部屋の明かりを消してその中に包まる。部屋の寒さと布団の温かさの差がじんわりと気持ちいい。そんなことを考えていたら、いつの間にか眠りに落ちていた。

翌朝

むくり。

起きたのは朝食1時間前の5時30分。ちょっと朝の散歩でもするか…と布団を抜け出たところ、かなりの寒さに再度布団に入って二度寝をしました。

寒い朝はお布団の素晴らしさがより実感できるね。

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布団を出て朝食をいただくまでの一連の視線の動きをお楽しみください

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ゆっくりと朝食をいただく。

旅館で過ごす時間の中で、朝食の時間ほど色々なことを考えるときもなかなかないと思う。昨晩の行程のことや今日のこと。平谷集落のこと。宿の雰囲気のこと。布団に入って眠りにつくまでのこと…。そんなことを考えながら食べる朝食は、どこか郷愁を感じさせる。

朝食を食べ終えたら宿を去らなければならないわけで、名残惜しくて仕方ない。

でもこれでいい。これがいい。

うん、この寂しさも旅も醍醐味の一つだな。

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宿のご主人と女将さんにご挨拶して、今日の目的地へ向けて出発する。

山深い平谷集落もいつの間にか朝日に包まれていて、今日もどうやら快晴のようだ。宿での感慨深い一時のおかげもあり、清々しい気持ちで自転車を漕ぎ始めた。

さくらぎ館、1泊2食付きで¥7,000也。

心からまた泊まりたいと思えるほど、良い宿でした。