【訪問日:2020年12月19日~20日】
- Part 1:宿到着~館内散策~温泉
- Part 2:夕食~翌朝のひととき
会津の温泉宿という選択肢
最近、本当に寒いですよね。先週あたりから気温が一気に下がってしまって、ロードバイクどころか屋外に行くのも躊躇われるレベルになってきています。
こんなときは温泉しかない。
それも、「冬」という季節を最大限に活かして雪が降り積もる中で温泉宿に泊まることができたのなら、この寒さもわりかし悪くないと思えるのではないでしょうか。
今回泊まったのは、まさにそんな宿。
会津若松市のほぼ中心部、白虎隊が自決した飯盛山の入口や会津藩家老・西郷頼母(たのも)の屋敷を中心とした博物館「会津武家屋敷」などを通り過ぎ、山間部に入りかけたところに広がる会津東山温泉の一角にその宿はありました。
この向瀧(むかいたき)は国の登録有形文化財第1号にも輝いた木造建築の温泉旅館です。しかも、少なくとも大正時代からは宮内庁ご指定の客室もあったりして、古くから多くの皇族を迎えてきた「格」の高さは全国的にも有名とのこと。
まず最初に東山温泉について述べると、開湯は今から約1300年前、名僧・行基によるものと言われています。江戸時代には「天寧寺の湯」と呼ばれて会津藩の武士が湯治に訪れる保養所にも指定されており、昔から会津の人々に愛されてきた温泉であることが伺えます。
東山温泉は今では奥羽三楽郷の一つ(他の2箇所は湯野浜温泉とかみのやま温泉)にも数えられていて、春は桜、初夏の新緑、秋は紅葉、冬の雪見風呂という風に季節によって全く異なる顔を覗かせることから、一年を通じて楽しめる温泉として親しまれている様子。
向瀧は、そんな東山温泉の入り口に位置しています。バス停を下りてすぐ目の前に見える木造建築の迫力は予想以上で、東山温泉を象徴する宿といってもいいくらいに存在感に溢れていました。
この向瀧もかつては会津藩の保養所に指定されており、その前身である「きつね湯」は、上級藩士の保養所として官選の指定を受けていた格式ある温泉宿。明治維新後は廃藩置県に伴い会津藩から平田家が譲り受け、代々営業を続けています。
それにしても、「上級藩士」「皇族」「宮内庁」と自分にとっては馴染みのない単語が続けざまに登場してきますが、はたしてその宿の品格の高さは一体いかほどのものなのだろうか。
というわけで泊まってきました。
向瀧に泊まる
この向瀧を予約したのは3ヶ月ほど前のことなのですが、当時は雪と温泉の組み合わせを楽しむことは想定していませんでした。
単に「冬だから温泉旅館でまったりしたいよね」くらいに考えていて、これほどまでに雪深い天気になるとは露とも知らず状態。そもそも福島県は完全に雪国であるので、12月の天候ともなれば"雪"なのは当然だと頭の片隅にはありましたが…まさか吹雪になるとはね。
防寒をしっかりしておいて正解というところでしょうか。
まずは、お部屋に案内していただきました。
今回泊まったのは、数ある客室の中でも人気の高い「水仙」の間。中庭に面していることから眺めが非常によく、予約の際におすすめの部屋で…とお願いしたらこの部屋を割り当てていただいたのですが、もう感謝しかないです(というかむしろよく空いてたなと)。
客室 水仙の間 【会津東山温泉 向瀧】公式HP 国・登録文化財の客室で、極上の和空間を楽しめます
とはいえ、公式HPの紹介文を読む限りではどの部屋(全室が文化財です)も充実したひとときを過ごせることは間違いありません。内装を360°確認できるパノラマもありますので、予めこの部屋に泊まりたいという希望があれば予約の際に確認してみることをおすすめしておきます。
で、部屋に荷物を置いてこの部屋の居心地の良さに歓喜し、さらに広縁からの眺めに興奮したりしたものの、時刻はまだ16時。夕食の時間は18時であることも含め、向瀧での一夜はまだ始まったばかり。
早速、館内を散策してみることにしました。
まずは玄関から。
玄関には帳場があり、ほぼ全ての時間帯で一人ないし二人の受付の方が控えています。来客があった場合は即座に対応していて、そこからスムーズに部屋まで案内してもらうという流れ。
というか、履物の受け渡しから案内までがあまりにスムーズすぎて、流石一級の旅館であることを如実に感じることができました。
玄関の一つ奥には売店があり、この向瀧オリジナルの日本酒(!)や工芸品などを購入することができます。中には実際に夕食に出されていた料理の一部も買うことができて、家に帰っても向瀧の味を満喫できるというわけ。
その奥は客室棟へと続いており、正面に進めば中庭をそれを囲むように建てられた一般の客室棟が、左に進めば宮内庁指定棟である「はなれの間」へと繋がっています。
ちなみにこの「はなれの間」は何も皇族限定というわけではなく、普通に我々も泊まることが可能です。値段も思ったよりは高くなくて、でも一部屋しかないので一生のうちに一度泊まれたらラッキーくらいの気持ちでいるといいかもしれません。実際にこの日も「はなれの間」には明かりが灯っていたので誰かしらが宿泊されていたようですね。
その「はなれの間」への分岐を過ぎると階段があります。
階段の真下にはこの向瀧の温泉の一つである「きつね湯」がありますが、その前に、ここで向瀧の温泉についてまとめておきましょう。
- きつね湯:会津藩指定保養所時代から存在する湯。自然湧出の自家源泉から動力を一切使わないで溜めたお風呂で、自然そのままの状態が楽しめる。温度は45度ぐらい。
- さるの湯:浴槽に大理石を使った広めの湯。屋内にあるが目の前が大きな窓になっているので、さながら露天風呂のような気分になれる。温度は41~42度ぐらい。
- 貸切家族風呂:蔦の湯、瓢の湯、鈴の湯の計3箇所あり、予約は一切不要で空いていれば自由に入ることができる湯。時間制限もないので、例えば一人でまったり入りたい場合はおすすめ。温度は43度くらい。
全ての温泉が源泉かけ流し100%、完全放流式(加水なし、加温なし、循環濾過なし) なことに加え、入る時間に制限もありません。チェックインの時間から翌日の午前9:30まで、深夜でも朝でも、いつでも好きな時間に入ることが可能です。
温泉 【会津東山温泉 向瀧】公式HP 会津東山温泉の源泉かけ流し100%!完全放流式。身体も心も温めます。福島 会津若松
源泉が玄関に近い方面にある影響で、必然的にこのきつね湯の温度が一番高く、そこから貸切家族風呂、さるの湯の順に温度が低くなっているということです。実に分かりやすい。
温泉には後でゆっくり入るとして、散策を再開します。
さらに直進すると、先ほど述べた中庭と貸切家族風呂があり、そのすぐ脇には「水仙」の間への階段があります。その階段を上ると「水仙」の間を含めて3つの部屋があり、いずれも中庭に面した風景が楽しめる配置になっています。
こう考えてみると、今回泊まった「水仙」の間は本当に良い立地にありますね。全体の宿の構造から見ても、3箇所の温泉のちょうど中心付近にあるため、どの温泉にも行きやすいという利点も理解できました。とりあえず初めて向瀧に泊まってみたいという場合には、「水仙」の間はおすすめできる部屋だと思います。
中庭に面した曲がり廊下を進んでいくと、「さるの湯」への分岐があります。
山に面した宿泊棟は、予想していた通り非常に階段が多い構造になっています。
部屋と部屋の間の高低差が大きい分、必然的に眺めがいいことが予想されますが、逆に言うと温泉へ行く際の負担も大きくなってしまうのがネック。ただし、予約の際に階段の少ない部屋がいい等の指定ができるため、足腰の影響で移動が大変だという場合でもきちんと配慮してくれます。
温泉と雪景色を楽しむ
さて、ここまでで館内の散策はあらかた終了。
といっても、宿泊棟についてはみだりに立ち入るのは失礼になるので、このあたりで留めておくのがいいでしょう(当然、シャッター音は無音にしています)。で、「水仙」の間に戻った我々がやることといえば、もうひとつしかありません。
というわけで、温泉に入りまくっていきましょう。
まずは「さるの湯」と「貸切家族風呂」に連続で入り、日中の極寒会津散策で冷え切った身体に熱を通す。
温泉というものは外気温と湯の温度との差が大きければ大きいほど気持ちがいいものですが、その観点でいくと東山温泉の湯はとてつもなく快適だった。(自分が鈍感なせいもあるけど)突出して何かの成分が強いということは感じられにくいものの、じんわりと身体の芯から端部まで沁みていくように温まっていくのが実感できる。
特に、貸切家族風呂の静けさが尋常ではないことがなおさら温泉の「良さ」を引き立てている気がします。
貸切の名の通り、今この瞬間にお湯に浸かっているのは自分だけ。聞こえてくる音は湯が注がれている音のみで、あとは全く外部の音が入ってきません。格が高い宿なので、宿泊客の方もある程度はしっかりした人が多いとは思いますが…なんというか温泉にしっかり集中できるというか、何にも邪魔されずに温泉を満喫できる空間でした。
もちろん、「さるの湯」や「きつね湯」も同様に静かなもの。
自分たちが入ったタイミングがたまたま人が少ない時間帯だったのか、他の人は大抵1人しかいないか、もしくは貸切状態だったりもしました。やはりそれなりの宿で過ごす時間は大切にしたいもので、ここではその願いが十二分に叶えられたと言えます。
で、そんな感じで温泉に入りまくっているといつの間にか日が落ちてました。
もともと雪深い天気だったこともあり、ここからはもう完全に屋内で過ごす時間、、と思いながら、ふと宿の回りを散策してみたくなるのが私。チェックインを済ませてから屋外を少し歩いてみるのが毎度の行動パターンになっているものの、温泉に集中しすぎて完全にタイミングを逃していたことは秘密ですが。
というわけで、ブーツに履き替えて外へ。
ごめん、めっちゃ寒いです(知ってた)。
けど、さっきの温泉でせっかく温まった身体が冷えていく悲しさを感じつつも、実はそれほど悲しくはない。
だって、これだけの景色を眺められるのだから。
雪に埋もれた木造旅館が、明かりによってほんのりと浮かび上がるように照らされている景色。
これは宿泊客にしか味わえない眺めであると同時に、実際に見るのはなかなか難しい。だってわざわざ寒い思いをして外へ出ないと行けないし、そんなことを好き好んでやる人は多いとは思えない。
だからこそ、この一面を独り占めしているという専有感が何より心地よく感じる。どうせまた屋内で温泉に入れば温まれるし、せっかく冬の温泉旅館に泊まったのだから、こういうひとときも楽しく思えてくる。
やはり旅館は良いものだ。
部屋に戻ってみると、ここでなんとサプライズがありました。
向瀧の予約をした際には全く知らず、宿泊日の数日前になってようやく把握したことなのですが、向瀧では冬の期間に「雪ろうそく」なる催しがあります。具体的に言うと、ある程度の積雪があった日には中庭に竹筒を設置し、その中にろうそくを灯すというもの。点灯本数は約110本ととにかく多く、中庭全体がろうそくで照らされている様子は息を呑む美しさとのことです。
雪見ろうそく 【会津東山温泉 向瀧】公式HP 雪に灯りの花が咲く忘れられない雪見ろうそく。 福島 会津若松
で、その雪ろうそくの眺めがこちら。
幻想的すぎる…。
本当に今日この日に向瀧に泊まって良かった。心からそう思えてくるほどの風景が目の前に広がっている。
ここで驚いたのは、この雪ろうそく、なんと今年はこの日(12月19日)からの開催だったということ。
もうどこまで運がいいのかって話なんですが、もう完全に予想外だったので、その美しさや喜びも何倍にも増幅されて感じられました。しかもですよ、この日は朝からずっと雪が降り続いていて、竹筒を差すにも問題ないくらいの積雪が得られたので予定通り雪ろうそくが催行されたというわけで。つまり二重に運が良かった。いや、中庭に面した「水仙」の間を意図せずゲットできた件も含めると三重か…?
とにかく、自分が宿に泊まる際には運がいいことが起きるな。一体どうなっているんだ。
一つ注意なのは、この雪ろうそくが点灯している時間は比較的短めだということですかね。
- 12月、1月:16:30〜18:00
- 2月:17:00〜18:30
日没時間にあわせて点灯しているそうですが、夕食の時間ってたいてい18時からなので、今の時期では夕食をいただくタイミングで点灯は終わっているということになります。夕食後にゆっくり見るか…と思っていると悲しいことになるのでご注意を。
あと、係の人が消えたろうそくの再点火や積雪の整形を随時行っているので、人が全く入り込んでいない写真を撮るのはなかなか難しかったです。
そんなことを考えながら見とれていると、気がつけばもう夕食時間。
Part 2は夕食から始まります。ではまた。